江戸の花鳥画 博物学をめぐる文化とその表象 (講談社学術文庫)
本, 今橋 理子
によって 今橋 理子
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内容紹介江戸後期に隆盛を迎えた「博物学」の思潮に注目し、それまで曖昧にしか捉えられてこなかった「花鳥画」に清新なまなざしをそそいだ意欲作、ついに文庫化。美術史と科学史の垣根を取り払い、個々の作品の精緻な分析から鮮やかに浮かび上がる新たな光景。サントリー学芸賞(芸術・文学部門)受賞作。図版多数収録!1995年度のサントリー学芸賞(芸術・文学部門)を受賞した本書は、それまで注目されることのなかった花木や草木、動物、虫魚など、あらゆる生物を対象にした「花鳥画」と呼ばれるジャンルを取り上げる。従来の「花鳥画」という概念には、色彩豊かで精密な写実的表現の絵画も、墨一色による水墨の技法による絵画もいっしょくたに含められていた。著者はここに一つの大胆な補助線を引いてみせる。そのとき注目されたのが、江戸後期に大名や学者から庶民に至るまで広がっていった動植物の生態への関心と、それゆえになされた飼育や栽培だった。その延長線上にあるのが、江戸時代の「博物学」の隆盛である。著者は本書の冒頭でこう宣言する。「本書を「江戸の花鳥画」と題したのは、あらゆる動植物へ向けられた江戸の画家たちの視線を、当時の博物学隆盛の文化背景の中に再発見しようとする試みのためである。そしてまた科学と芸術が密接に連関しながら育む新しい思潮の中で、古来より描き続けられてきた「花鳥」画が、科学と芸術とが特に接近した江戸時代においていかなる様相を呈していたかを明らかにするためでもある」。こうして本書は、それまで誰も思いつきすらしなかった視線を生み出し、「花鳥画」という言葉にまったく新しい意味を与えた。現在、日本では博物図譜のジャンルは多くの人に知られ、たくさんの展覧会が開かれている。その大きな突破口を開いた記念碑的著作が、ついに文庫化。図版多数収録!内容(「BOOK」データベースより)花、草、虫、魚、鳥などを描く「博物図譜」は、長らく軽視されてきたジャンルである。しかし、色彩豊かで精密なその写実表現は見る者を惹きつけてやまない。本書は、江戸後期に大名や学者から庶民にまで及んだ動植物の生態への関心に注目し、博物図譜を科学と芸術の結節点として浮かび上がらせる。日本美術史研究の風景を一変させた記念碑的著作!商品の説明をすべて表示する
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昨今、日本では俄かに博物学への関心が高まっているようだが、「日本美術」という観点での「博物図」の位置付けは、西欧諸国に比べると未だ後進的だと認めざるを得ないと言う。確かに「博物図」という言葉から私達が連想するのは、あくまでも動植物の形態を精密に写し取っただけの絵に過ぎず、それを一つの絵画作品とも看做さなければ、ましてや芸術に結び付けようとは思わない。だが、例えば、空前のブームを巻き起こしている伊藤若冲、或いは古来より日本の伝統でもある花鳥図についてはどうであろうか…それでも尚、博物図と芸術は全く関連が無いと言えるであろうか…?答えは否。そこで、改めて「日本美術」という視点で「博物図」を読み解いたのが本書であり、新たな発見を齎してくれる一冊として実に画期的であった。さて、本書は著者自身の専門領域である秋田蘭画を中心とした小論集であるが、勿論、秋田蘭画以前から浮世絵の時代までを幅広く扱っている。具体例を挙げるならば、公家でありながらも本草・博物学に精通していた近衛家熈、南蘋流から独自の世界を生み出した宋紫石、狩野派、春信、歌麿、広重等の浮世絵師、そして若冲や北尾重政に至るまでを多彩に扱っているので、最後まで興味が尽きる事はなかった。因みに、全て秋田蘭画に費やした第二部では著名な小田野直武と佐竹曙山に焦点を絞って紹介・分析しており、秋田蘭画についてよく指摘される西洋的技法…即ち「写実性」「陰影」「遠近法」等と博物図との相互関係についても解り易く解説しているので、得るものは大きかったように思う。尚、各論考では様々な作品の緻密さや写実性、或いは超絶技巧の中に見られる豊かな表現力について思う存分論じているが、本書の魅力は絵画論だけには留まらない。例えば、第六章「鴨場の風景」では狩野養信《鷹狩図屏風》を取り上げながら、当時に於ける鷹狩りの意義、鷹匠の役割と使命、そして大名達に依る鳥の飼育にまで言及しているので、様々な鳥に彩られた大名屋敷・庭園の光景が眼に浮かぶようでもあるし、或いは、宋紫石のダイナミズムを「“写生”は常に“写実”ではない」と評し、ここに西洋絵画の“リアリズム”との決定的な違いを指摘してくれた所は何にも替え難い貴重な考察でもある。更には、最終章では海外に渡った《禽鳥帖》に着目しながら西洋と日本の「博物図」の融合を示唆し、今後の課題を以って幕を閉じた鮮やかさも圧巻であった。唯一、円山応挙への言及が無かったのは意外…と言うか、やや物足りなくは感じたものの、それを補う程の充実した内容である事は間違いないと思う。本書を読み終えた今、最早「博物図」を単なる“図鑑の挿絵”として素通りする事は出来ない。何故なら、それが一つの芸術作品としての伝統を保って来た事を知り、同時に、今まで気付かなかった独特の魅力を知ったからである。写実を追及し、その頂点に至った時にこそ見えて来る世界観…そんな新しい芸術があった事に立ち返らせてくれる名著である。
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