上海時代―ジャーナリストの回想〈上〉 (中公文庫)
本, 松本 重治
によって 松本 重治
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内容(「BOOK」データベースより) 満州事変後の排日抗日の風潮の中、聯合通信上海支局長として中国へ赴いた著者は、日中戦争勃発をはさむ6年間、上海を舞台に取材、報道にあたった。その間、中国を始め、内外の政治家・外交官・財界人・ジャーナリスト等との多彩な交友を通して、日中正常化・和平への実現に尽力した。日中外交折衝の渦中にあった著者が、40年来の情熱をこめて綴った歴史の現場からの証言。日本エッセイスト・クラブ賞受賞。全3巻。
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<本質的なものと非本質的なものとを分かつこと>は、日本国民が苦手とするところであり、小局の勝利に酔いしれて大局的に敗北するという愚かさを露呈したのが、今次の大戦であった。この点について思い当たることが、国際ジャーナリスト・松本重治が書いた『上海時代』の次の記述である。松本は、太平洋会議における新渡戸稲造との交友を振り返って、新渡戸の語った忘れ難い言葉を次のように紹介している。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(新渡戸)「(松本)君、センス・オヴ・プロポーションということを知っているかね。<大きいことと小さいことを識別する能力>のことだよ。イギリス人は、この能力に強いが、日本人は、残念ながらまだ弱い」また「松本君、グラス・オヴ・シングスという言葉を知っているかね。人生の問題でも、社会政治の問題でも、問題は複雑に定まっている。<物事や問題の核心を把握すること>だよ。そうすれば、どうすればよいかが、自ずから判ってくるものだ。これにも、イギリス人というか、アングロ・サクソンの人々というか、彼らは強いのだよ」(『上海時代(上)』)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この問題の具体的事例として記述されているのが、ドロ沼化しつつあったシナ事変の打開のために松本自身が積極的にかかわったトラウトマン工作に関する次の記述である。当時、中華民国の駐日参事官であった楊雲竹氏と松本は、一高・東大の後輩・先輩の関係でもあり親友同士でもあった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(松本)「楊君、いったい日本はどうしたらいいのかね。君の率直な意見を聴きたいね。何もしなければ、両国とも疲れ果てるに定まっている。過去は過去として、これからが問題だ。盧溝橋事件だって、ほんとの張本人は誰だか判らぬのだが、はっきり判っているのは、長期戦で苦しむのは、両国の国民だということだ。何か智恵はないかね。」(楊)「ないことはないよ。・・・松本さんは『按兵不動』ということを知らないかね。『兵を按じて動かず』という意味だ。」「松本さん、蒋介石は、漢口をとられてしまえば、和平を放棄し、長期抗戦に徹すること以外には考えないことになるだろう。漢口以前ならば、日本の和平条件如何によっては、考え直す余地は十分にあると、私は信じている。去年、十二月初旬、トラウトマン独大使と蒋介石とが会見した際でも、日本が大乗的な条件を出せば、協議に応ずる用意あり、と言っていた。・・・要するに、漢口攻略直前に『按兵不動』を日本が実行し、日本側の和平条件が大乗的なものであるならば、和平のチャンスは大いにあるのだ。松本さん、この中国側の心理が日本側の和平条件が大乗的なものであるならば、和平のチャンスは大いにあるのだ。松本さん、この中国側の心理が日本側に解らないことが僕にとって痛恨の極みである。この点、あなたの努力で近衛さんはじめ、日本側を啓蒙してもらいたいものだ。」(松本)「楊君、僕には君の言うことがよくわかるよ。微力ながらやってみよう。だが、徐新六が僕によく言ったことだが、日本人は『心理学に弱い』、つまり、対手の心理が読めず、適宜の措置を適宜の時期にやれないのだ。日本人が譲歩的態度を示せば、中国人はすぐつけあがる、という偏見が、今の日本では一般に行なわれている。<大局を把握して、考え方の次元をもっと高いところに置くべきこと>に、日本側が気がつきさえすれば、万事うまくゆくのだがね。」(『上海時代(下)』)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シナ事変を収拾できなかったことが、太平洋戦争への大きな要因となったことを思う時、トラウトマン工作の失敗は致命的であった。また上記の松本重治の指摘は、尖閣諸島問題がこう着状態にある日中関係の現状に対しても大きなヒントを与えてくれているのではないか。【日本人が譲歩的態度を示せば、中国人はすぐつけあがる、という偏見が、今の日本では一般に行なわれている。<大局を把握して、考え方の次元をもっと高いところに置くべきこと>に、日本側が気がつきさえすれば、万事うまくゆくのだがね。】この言葉は、現在の日中外交にも当てはまる至言である。
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